個人年金の受取方法は一括と分割(年金)でどっちがお得?

2024.11.21 更新

個人年金を一括受取または年金受取にしたときに税金や保険料などにどのような影響が出るのか。どっちのほうがお得なのか。一括で受け取った方が得なのか。税金面で損になったりするのか。この記事では個人年金の受取方法によってどのような違いがあるかについてシミュレーションして説明していきます。

この記事のまとめ(ポイント)


▶個人年金の受け取り方で計算が変わる?
一括で受け取る場合と 年金(分割)で受け取る場合で所得の種類が変わるので、税金等への影響が変わる。
※金額の計算は下記でシミュレーションして説明しています。


▶個人年金の受け取り方で受給額は変わる?
一括受取よりも年金受取のほうが受給額が多くなる傾向
※手取りの計算は下記でシミュレーションして比較しています。


▶個人年金で損することある?
損するかどうかはライフプランによって変わる。すぐにお金が欲しいなら受給額が少なくても一括で受け取るのがオススメ。


▶個人年金の受取方法はどっちがおすすめ?
おすすめの個人年金の受取方法は年金(分割)で受け取る方法。たくさん年金を受け取りたいなら年金(分割)で受け取るのがオススメ。
※くわしくは下記で説明しています。


この記事の目次
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個人年金は一括と年金受取で何が違う?

60歳や65歳など自分で契約した年齢になったときに支給される個人年金には受け取り方法が2つあります。

分割して年金で受け取る方法と一括で受け取る方法です。

それぞれ何が違うのかというと、所得の計算方法が違います。
※個人年金とは生命保険等を契約して、設定した年齢になったときに支給される年金のこと。老齢厚生年金などの公的年金等とは異なります。

所得の計算方法が違うと何か影響あるの?


個人年金は受け取り方によって雑所得または一時所得になります。


▶年金で受け取る場合
個人年金を分割して年金で受け取る場合は雑所得になります。たとえば、年金として年間100万円支給される場合、経費が80万円なら雑所得は20万円になります。

100万円年金収入80万円必要経費 = 20万円雑所得
必要経費(総払込保険料など)は契約した生命保険会社等から送られてくる明細書に記載されています。ここでは計算をわかりやすくするために年間80万円(10年だと800万円)としています。

1年間あたり雑所得20万円があなたの所得金額として加算されます。所得金額が増えることで、税金や保険料へ影響が出る場合があります。

▶一括で受け取る場合
個人年金を一括で受け取る場合は一時所得になります。たとえば、一括受け取りで一時金として1,000万円支給される場合、経費が800万円なら一時所得は150万円になります。

1,000万円一時金の収入200万円必要経費50万円特別控除額 = 150万円一時所得
必要経費(総払込保険料など)は契約した生命保険会社等から送られてくる明細書に記載されています。ここでは計算をわかりやすくするために800万円としています。

そして一時所得の半分(上記なら75万円)があなたの所得金額として加算されます。所得金額が増えることで、税金や保険料へ影響が出る場合があります。

雑所得と一時所得で何が変わるの?
上記をみてわかるように、雑所得と一時所得では所得の計算方法が違うので、所得金額が一緒になりません。

したがって、あなたにかかる税金や保険料の金額が変わってきます。くわしくは次の項目で見ていきましょう。


一括と年金受取で金額を比較シミュレーション

では、個人年金を一括で受け取る場合と分割(年金)で受け取る場合で金額をシミュレーションしてみましょう。

個人年金にかかる税金や保険料が違うのか、手取りはどっちが多くなるのか比較していきます。

年金(分割)で受け取る場合
たとえば65歳以上で老齢年金が180万~250万のひとが個人年金を受け取った場合。
▶上乗せされる税金は?
たとえば個人年金の収入が1年間で100万、経費が80万のとき雑所得は20万円になります。このとき、あなたに上乗せされる税金は年間約3万円です。
※経費(総払込保険料など)は契約した生命保険会社等から送られてくる明細書に記載されています。ここでは計算をわかりやすくするために80万円/年としています。

つまり、10年間受け取った場合はトータルで税金が約30万円上乗せされます。

※個人年金の収入は10年間で1,000万円としています。

雑所得
※個人年金額 - 必要経費 = 雑所得になります。必要経費(総払込保険料など)は明細書に記載されています。
上乗せされる税金
雑所得10万円のとき あなたに上乗せされる税金は
年間約15,000円です。
所得税約5,000円、住民税が約10,000円。
雑所得20万円のとき あなたに上乗せされる税金は
年間約30,000円です。
所得税約10,000円、住民税が約20,000円。
雑所得30万円のとき あなたに上乗せされる税金は
年間約45,000円です。
所得税約15,000円、住民税が約30,000円。
雑所得40万円のとき あなたに上乗せされる税金は
年間約60,000円です。
所得税約20,000円、住民税が約40,000円。

※金額はおおよそです。
※個人年金があっても雑所得が0円になるなら税金はかからない。

※独身、支払った社会保険料は0円として年金税金シミュレーションで計算。
※個人年金(確定年金や終身年金、有期年金など)は公的年金等控除がつかえません。

▶上乗せされる国民健康保険料は?
たとえば個人年金の収入が1年間で100万、経費が80万のとき雑所得は20万円になります。このとき、あなたに上乗せされる国民健康保険料は年間約2.3万円です。
つまり、10年間受け取った場合はトータルで国民健康保険料が約23万円上乗せされます。

※保険料率は毎年同じではないのであくまで目安です。
※個人年金の収入は10年間で1,000万円。

雑所得
※個人年金額 - 必要経費 = 雑所得になります。必要経費(総払込保険料など)は明細書に記載されています。
上乗せされる国民健康保険料
雑所得10万円のとき あなたに上乗せされる保険料は
年間約12,000円です。
65才未満は約14,000円
雑所得20万円のとき あなたに上乗せされる保険料は
年間約23,000円です。
65才未満は約28,000円
雑所得30万円のとき あなたに上乗せされる保険料は
年間約35,000円です。
65才未満は約42,000円
雑所得40万円のとき あなたに上乗せされる保険料は
年間約46,000円です。
65才未満は約56,000円

市区町村によって保険料は異なります。
世田谷区、加入者1人で計算。
※金額は国民健康保険料シミュレーションで計算。
国民健康保険は前年1月~12月までの所得をもとに計算されます。

▶上記の結果、個人年金10年の手取りはいくらになる?
年金で受け取った場合、10年間の収入1,000万にたいして10年間で税金が約30万、国民健康保険料が約23万引かれるので、手取りは947万円になります。

1000万円年金収入53万円税金等 = 947万円個人年金の手取り
※65歳以上、独身、老齢年金が180万~250万のひとが個人年金を受け取った場合として計算。


介護保険料の決まり方は少し特殊で、一定のラインごとに保険料が決まります。
※たとえば合計所得が100万円増えるごとに保険料が1段階 増えるようなしくみ。くわしくは65歳以上の介護保険料を参照。

たとえば、個人年金をもらう前にあなたの合計所得が120万未満(老齢年金だけで230万未満)のとき↓。

個人年金による雑所得の増加で合計所得が増え、介護保険料が1段階増える場合、年間約8,000円上乗せされます(10年間で約8万円)。
※合計所得が120万以上 210万未満になった場合。合計所得によっては介護保険料はもっと増えます。
※世田谷区、独身として介護保険料シミュレーションで計算。
※おすすめ記事:老齢年金に加えて個人年金があると介護保険料が増える?
一括で受け取る場合
たとえば65歳以上で老齢年金が180万~250万のひとが個人年金を一括で受け取った場合。
▶上乗せされる税金は?
たとえば一括で受け取る個人年金の収入が900万、経費が800万のとき一時所得は50万円になります。
※一時所得の場合、50万の半分である25万円が総合課税として所得に加わります。
一時所得の計算方法は上記で解説しています。


このとき、あなたに上乗せされる税金は年間約3.6万円です。
つまり、一括で受け取った場合はトータルで税金が約3.6万円上乗せされます。

一括で受け取る方が収入は少なくなるので、ここではわかりやすく900万円としています。上記の「年金で受取」した場合の個人年金の収入は10年間で1,000万円としています。

一時所得 上乗せされる税金
一時所得20万円のとき
※一時所得の半分10万円が所得に加わったとき
あなたに上乗せされる税金は
年間約15,000円です。
所得税約5,000円、住民税が約10,000円。
一時所得50万円のとき
※一時所得の半分25万円が所得に加わったとき
あなたに上乗せされる税金は
年間約36,000円です。
所得税約12,000円、住民税が約24,000円。
一時所得100万円のとき
※一時所得の半分50万円が所得に加わったとき
あなたに上乗せされる税金は
年間約75,000円です。
所得税約25,000円、住民税が約50,000円。
一時所得150万円のとき
※一時所得の半分75万円が所得に加わったとき
あなたに上乗せされる税金は
年間約113,000円です。
所得税約38,000円、住民税が約75,000円。

※金額はおおよそです。
※個人年金があっても雑所得が0円になるなら税金はかからない。

※独身、支払った社会保険料は0円として年金税金シミュレーションで計算。
※個人年金(確定年金や終身年金、有期年金など)は公的年金等控除がつかえません。

▶上乗せされる国民健康保険料は?
たとえば一括で受け取る個人年金の収入が900万、経費が800万のとき一時所得は50万円になります。
※一時所得の場合、50万の半分である25万円が総合課税として所得に加わります。
一時所得の計算方法は上記で解説しています。


このとき、あなたに上乗せされる国民健康保険料は年間約2.9万円です。
つまり、一括で受け取った場合はトータルで国民健康保険料が約2.9万円上乗せされます。

※保険料率は毎年同じではないのであくまで目安です。
一括で受け取る方が受給額は少なくなる傾向なので、ここではわかりやすく900万円としています。上記の「年金で受取」した場合の個人年金の収入は10年間で1,000万円としています。

一時所得 上乗せされる国民健康保険料
一時所得20万円のとき
※一時所得の半分10万円が所得に加わったとき
あなたに上乗せされる保険料は
年間約12,000円です。
65才未満は約14,000円
一時所得50万円のとき
※一時所得の半分25万円が所得に加わったとき
あなたに上乗せされる保険料は
年間約29,000円です。
65才未満は約35,000円
一時所得100万円のとき
※一時所得の半分50万円が所得に加わったとき
あなたに上乗せされる保険料は
年間約58,000円です。
65才未満は約69,000円
一時所得150万円のとき
※一時所得の半分75万円が所得に加わったとき
あなたに上乗せされる保険料は
年間約86,000円です。
65才未満は約104,000円

市区町村によって保険料は異なります。
世田谷区、加入者1人で計算。
※金額は国民健康保険料シミュレーションで計算。
国民健康保険は前年1月~12月までの所得をもとに計算されます。

▶上記の結果、個人年金(一括)の手取りはいくらになる?
一括で受け取った場合、収入900万にたいして税金が約3.6万、国民健康保険料が約2.9万引かれるので、手取りは893.5万円になります。

900万円年金収入6.5万円税金等 = 893.5万円個人年金の手取り
※65歳以上、独身、老齢年金が180万~250万のひとが個人年金を受け取った場合として計算。

介護保険料の決まり方は少し特殊で、一定のラインごとに保険料が決まります。
※たとえば合計所得が100万円増えるごとに保険料が1段階 増えるようなしくみ。くわしくは65歳以上の介護保険料を参照。

たとえば、個人年金をもらう前にあなたの合計所得が120万未満(老齢年金だけで230万未満)のとき↓。

個人年金による雑所得の増加で合計所得が増え、介護保険料が1段階増える場合、年間約8,000円上乗せされます。
※合計所得が120万以上 210万未満になった場合。合計所得によっては介護保険料はもっと増えます。
※世田谷区、独身として介護保険料シミュレーションで計算。
※おすすめ記事:老齢年金に加えて個人年金があると介護保険料が増える?


確定申告が必要なの?年金or一括の場合

個人年金を受け取るとき、金額によっては確定申告が必要にないこともあります。

個人年金を一括または年金で受け取った場合でどう違うのか、比較してみていきましょう。

一括と年金受取で申告する回数が違う?

▶一括で受け取る場合
申告する回数は1回だけ(個人年金を受け取った年だけ)。


▶年金で受け取る場合
個人年金を受け取った年ごとに毎回申告をする。
※たとえば10年間受け取れば、10回申告をすることになります。

ただし、下記で説明するように確定申告が必要ない場合もあります。
20万以下なら確定申告する必要ない?
確定申告しないなら住民税の申告が必要になっちゃう

公的年金等以外の所得が20万円以下ならば確定申告をしなくてもいい決まりになっています。
公的年金等とは老齢年金などのこと。

つまり、公的年金以外の所得が1年間(1月~12月まで)で20万円以下なら確定申告は不要になります。

※個人年金を一括で受け取る場合は一時所得の半分が20万以下のとき。
※個人年金を年金で受け取る場合は雑所得が20万以下のとき。

ですが確定申告をしない場合、公的年金以外の所得が20万円以下でも住民税の申告が必要になります(確定申告をした場合、住民税の申告は必要ありません)。確定申告はネットで簡単に作成できるので、確定申告をすることをオススメします。確定申告のやり方は下記で説明しています。
※確定申告をする場合は、20万円以下だとしても所得の申告をしなければいけません。
※出典:国税庁確定申告を要しない場合の意義
※出典:国税庁高齢者と税

※個人年金の所得(雑所得)が25万円以上になる場合、その金額の10.21%が源泉徴収されます(所得税と復興特別所得税)。源泉徴収で余計に所得税が引かれている場合は確定申告をすることで税金が還付されます。


結局どっちがお得?

上記のシミュレーション結果と照らし合わせた場合、一括で受け取った方がいいのは「すぐにまとまったお金が欲しい人」や「確定申告を毎年したくない人」です。この場合は一括で受け取ることをおすすめします。

より多くの金額を受給したい場合は年金で受け取ることをオススメします。
※年金受取または一括受取のどっちが良いのかはそのひとのライフプランによります。

一括と年金受取どっちがいい?

▶一括がオススメのひと
・すぐにまとまったお金がほしいひと
・確定申告を毎年したくないひと

※個人年金は一括で受け取るほうが受給額が少なくなる傾向です。


▶年金(分割)がオススメのひと
受給額を多くしたいひと
※個人年金は年金で受け取ったほうが受給額が多くなる傾向です。

▶注意点
ここでは一括で受け取った場合を900万、年金の場合は1,000万(100万×10年間)としていますが、契約内容によっては一括の受給額はもっと少なかったり、年金の受給額はもっと多かったりします。
※一括の場合は払込保険料を下回ることもあります。
上記のシミュレーション結果はあくまで計算例です。


老齢年金と個人年金を受け取るようなひとで、住民税非課税世帯に該当するひとは少ないと思います。しかし、個人年金を受け取らなければ「かろうじて住民税非課税世帯にあてはまる」ようなひともいるでしょう。


▶どういうこと?
たとえば、あなたが65歳以上で老齢年金が211万であり、前年所得が45万以下の同一生計配偶者がいる場合、住民税非課税世帯にあてはまります。

夫:65歳以上、老齢年金211万
妻:所得45万以下
ギリギリで住民税非課税世帯にあてはまる。
※大都市の場合。
※市区町村によっては203万や192.8万以下じゃないと住民税が0円にならないので注意。
※おすすめ記事:夫婦だと年金211万まで住民税が非課税になる?

この場合、個人年金を受け取ることで所得が増えてしまえば住民税非課税世帯から外れてしまいます。

住民税非課税世帯じゃなくなった場合、介護保険料が増えるなどの影響があります(下記のような影響)。


▶非課税世帯じゃないとどんな影響がある?

・介護保険料が増える
※非課税世帯だったときと比べると2倍くらいに増えることが多いです。
※たとえば年間約4万円だったのが年間約8万円に増える(介護保険料の決まり方


・住民税が課税される
※住民税が年間5,000円または年間数万円課税されることになります。

・高額介護サービス費が増える
※介護サービスを利用するひとは注意。月額の負担限度額が増えてしまいます。
※たとえば1ヶ月の上限が24,600円だったのが44,400円に増えます(高額介護サービス費とは)。


・高額療養費の負担限度額が増える
※病院等をよく利用するひとは注意。一か月の費用限度額が増えてしまいます(高額療養費制度とは)。

・養護老人ホーム等に入所した際の食費等が増える
※養護老人ホームに入所する場合は注意。
特定入所者介護サービス費(補足給付)が利用できなくなるため、食費や居住費が安くならなくなります。
※ただし、預貯金や株式等の資産が多い場合(夫婦で2,000万を超える場合)は住民税非課税世帯であっても対象外です。



以上のようなデメリットがあるので、自分にあてはまる場合は気をつけましょう。
※おすすめ記事:住民税非課税世帯から外れたときのデメリットはなに?

個人年金をもらうことで確定申告が必要になったり税金が増えたりいろいろ面倒ですが、受け取る予定のひとは心の準備をしておきましょう。

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